伝説に散った龍Ⅰ
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黒い龍を背負う彼らが来たのは
伊織が咲良と消えてから、三分ほどが経った頃だった。
三分という時間は。
しばらく、と言えばしばらくだが
残念ながら
そのしばらくさえ、私を苛立たせる材料にほかならない。
どこからともなく湧き上がってくる黒い感情を抑え
なるべく平常心で彼らを迎えようと努めた。
「…誰」
「…」
「お前誰だよ」
「…遅い」
「…あ?」
「遅いんだけど」
青い髪の男が警戒心丸出しで私を威嚇する。
いや、威嚇したいのはこっちなんだけども。
むしろ。
こいつらは状況を分かってるのだろうか。
「ピリピリする前にやることがあるのに」
「おい女」
「…」
「誰に向かって口聞いてんの?それ」
「…は?」
「随分な口聞くな」
「…もういい」
ぶつけようのない苛立ちは
加えて、伊織絡みなだけあって
私も黒龍もピークに達しているはずなのに、後先考えない雑言が口をつく。
「優先順位考えてよ」
「さっきから何様なのお前」
「何それキモ」
「…おいてめえ今なんつった」
「おい柚、」
明らかに悪意の籠った手を私へ伸ばした青髪の男を
伊織の彼、───近藤爽が制止した。
「よく聞いて」
「…」
「昼休み、校舎裏、北見咲良」
「…、」
「出遅れてるよ」
「、っ」
「…恨むなら自分たちの無能さを恨むのね」
本当ならば殴り倒してしまいたいところだった。
踏みとどまったのは
伊織の顔を思い出したから。
『転校してくる』と笑った、彼女の笑顔を。