伝説に散った龍Ⅰ
「えまさか、伊織を笑ってたの?」
満面の笑みでそう言った。
ガクガクと震え出す彼女に視線を合わせ。
その顎に指を滑らせる。
「ごめんなさ、い、もうっ、しない」
「もうしないから何?」
「許して、お願い許してっ」
「へえ」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、ほんと、にっ、もうしない」
「それは最低限」
オプションが必要だよ、咲良。
「“許さない”っていうオプションが」
その時にはもう既に、彼等も犯した罪の重大さに気がついていたはずだ。
遅すぎるけれど。
「真面目に教えて欲しいんだけど」
「…うぅぅ…っ」
「どうしてアンタが伊織を恨んでいいの?」
「んぅ、っごめ、なさ」
「どうしてアンタが泣いていいの?」
「ごめん、なさ」
「謝って済む問題だと思う?」
「思わない、っ思わない…っ」
「だよね」
そうだよね。
アンタが怒らせたのは私だけじゃないもの。
「まさか、まさかほんとに」
「黒い龍がお怒りだよ」
「っ…、ああぁぁぁぁあ゙!」
「アンタもアンタもアンタもアンタも」
もう間もなく、狩られちゃう。
んふふ、やっと気がついた?
怪しく光る笑みのその奥。
驚く程に強大な怒りを
咲良は間近で見ていた。
「やっていいことと、悪いことがあるよね」
「…やめてっ、やめて円堂さ、っ」
「その区別もつかないようならきっと死ぬね、咲良は。誰よりも早く」
「、っごめんなさい…っ」
「覚えといてね。おバカな皆さん」