愛されたい、だけなのに。〜卒業から少し経ったお話〜
結芽ちゃんとお母さんの姿が見えなくなったところで、圭吾くんに聞いた。
「警察官の人と、結芽ちゃんのお母さんと何話したんですか?」
隣にいる、圭吾くんを見上げる。
「あぁ、何か悩みがあるならカフェで話聞きますよって」
「え!?」
私も、結芽ちゃんに同じようなこと言ったよ…
「櫻井も、結芽ちゃんに言ったんだろ?」
ドキン。
微笑んでいる圭吾くんと目が合った。
「…はい」
さすが、圭吾くん…お見通しだった。
「来るって?」
「いや…何も返事しなかったです」
「そっか。母親の方は、すぐ来そうな感じだったけどな。親子で来てくれればいいのにな」
「そうですね…」
けどきっと、結芽ちゃんはお母さんとは来ない。
あの何も映っていない目ー…
今日は助かったから良かったのかもしれない。
けど、次はきっとー…
ぽんぽん。
「!」
圭吾くんの大きな手が、頭を撫でた。
何事かと目を見開いて、圭吾くんを見上げる。
「結芽ちゃんのこと気になるかもしれないけど、櫻井がそんなに気に病むことはないんだからな」
ドキン。
「はい…」
圭吾くんに考えていたことがバレていて、目を逸らした。
「櫻井にも前に言ったと思うけど、結芽ちゃんの気持ちを理解しようとしても100%は理解できないんだからな。櫻井は櫻井で、結芽ちゃんは結芽ちゃんだからだ」
私が死にたいようなことを当時の柳先生に言った時に、返ってきた言葉だ。
「自分と似てるからって、必要以上に結芽ちゃんと関わらないこと。最悪の場合、引っ張られるかもしれないから」
「…引っ張られる?」
どういう意味?
「過去を思い出して、櫻井が結芽ちゃんの感情に引っ張られてしまうことだよ。話を聞くのはいい。けど、それに引っ張られるのは怖い」
「そんな…私は…!」
目を逸らしていたのを上げ、圭吾くんを見上げた。
「もうあんな風に走るのは、ごめんだ」
圭吾くんの眉が下がり、とても悲しそうな顔をしている。
ドクン。
「…っ」
そんな表情を見て、胸が締め付けられる。
「…ごめんなさい」
そう小さな声で言うと、圭吾くんはそっと抱き締めてくれた。