ちゃんと伝えられたら
本当はそれを聞きたいのは私の方だ。

「俺はお前が何を考えているか分からない。」

私の中で何かが崩れてしまったように感じた。

いつもお付き合いをする人に、最後に言われる言葉。

「…私達、ちゃんと始まる前にこうなってしまうなんて、初めからきっとうまくいかない運命だったのかもしれませんね…。」

「始まる前…?」

坂口さんの低い声が響く。

「ううん、良いんです。ちゃんと仕事は頑張りますから。私は今の仕事にやりがいを感じていますから、こんな事ぐらいで補佐を外さないで下さいね。」

「こんな事…?」

坂口さんの腕の力が緩んでいくのが分かる。

私はその一瞬に坂口さんの身体から抜け出した。

「仕事に戻ります。」

私は泣き笑いの表情で、自分のデスクに戻って行く。

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