ちゃんと伝えられたら
私は連絡先を聞かれた後、送られてくるラインには失礼がない程度には返信をしていたが、決して着信には出なかった。

「初めて出てくれましたね、まだ仕事中ですか?」

寺本さんのホッとしたような優しい声。

「いえ…。」

私は言葉を濁す。

「分かっているんですよ、今、俺は篠田さんの会社の前にいますから。」

「どういうことですか?」

「2時間ほどここに居ますが、あなたは出て来ていない。」

私は思わず黙り込む。

「あなたともう一度ゆっくり話がしたい。俺は自分が思っているよりもずっとあなたの事が欲しいみたいです。」

穏やかなセリフにもその熱を感じる。

「ここで待っていますから。そうでもしないとあなたは逃げてしまうから。」

そう言って寺本さんはスマホを切ってしまった。

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