ちゃんと伝えられたら
私は慌てて窓際に行き、会社の入口を見下ろした。

少しそわそわした…、見慣れたその姿。

不意に寺本さんがこちらを見上げたような気がして、私は慌てて窓から離れる。

社員用入口から出たら、多分寺本さんに分からずに帰ることも出来るかもしれない。

でも…。

私はてきぱきと帰り支度をすると、社員用入口から出て真っ直ぐに会社の正面入口へ向かう。

「寺本さん。」

私が声を掛けると、嬉しそうに寺本さんはこちらを向いた。

「篠田さん。」

その優しい笑顔がまぶしい。

「いつもこんな遅くまで仕事をしているんですか?」

寺本さんは自分の腕時計を見た。

「寺本さん、ずっと待っていてくれていたのですか?」

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