ちゃんと伝えられたら
20
道人さんの部屋を出ると、綾人さんは黙々と歩き続ける。

…私の手を強く握って。

目の前に綾人さんのマンションが見えて来た時、綾人さんは急に立ち止まった。

「お願いだ…、もう一人でどこかに行ってしまわないでくれ。」

綾人さんは私を強く強く抱きしめた。

「もう気が狂いそうだった…。」

「綾人さん…。」

「初めてだ、仕事を放り出して人を探し回るなんて。」

綾人さんは自虐的に笑った。

「えっ?」

「こんなメモを残して姿を消すなんて、お願いだからもうやめてくれ。」

綾人さんは私が残したメモをひらひらさせた。

「そんなつもりじゃなかったんです。」

私はそれを取り上げようとした。

< 213 / 258 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop