教育係の私が後輩から…
「そうでしたか?」
彼女の優しさ…
「だったら、
初めから俺達にも教えてくれたら…あっ…」
七本は気がついた様だ。
彼女が七本へ伝えようとしていたことを…
そして、自分が言わせない様にしたことも…
「でも、なぜ佐伯が泊まるんですか!?
有馬社長も、奥様を追い出すようにして?」
「それも、主人と宣美さんの優しさなのよ?」
「え?」
社長と、彼女の優しさ?
「主人はあの通りの身体でしょ?
ヘルパーもお願いしてるんですけど…
それでも夜は、私しか居ないの。
主人の体はいまだに、事故の記憶が残っていて、
ほぼ毎晩魘されるの…
無い筈の足が痛いと…
その度に私は主人の無い足を擦ってあげるの…」
「大変ですね…」
七本は他人事の様に言った。
七本は間違って居ない。
ほとんどの人が他人事の様に言うだろう…
「ほんとう…大変よ?
でも宣美さんは私の代わりを、
無償でかって出てくれたの。
一晩だけでも、ゆっくりして来て下さいって?
ホテルの予約まで取ってくれて…」
「じゃ、今日も…」
「宣美さんには、主人の添い寝の事は、
口止めされてたけど…
猪瀬さん、
貴方には知って置いてほしかった。」
「え? 私にですか?」
「貴方、お爺様によく似てらっしゃる。」
「えっ?
もしかして社長も、私の素性をご存知…?」
「多分分かってるでしょうね?
若い頃は互いに悪友と言ってましたから?」
懐かしそうに笑う奥様に、俺はもっと早く会いたかったと思った。
せめて、一月でも早く…
「奥様お願いが…」