教育係の私が後輩から…
「それは…社長と佐伯が…なんと言うか…」七本が言いづらそうに言うと、
「男女の関係だから?」
奥様はおかしそうにそう言った。
「え!?
奥様はご存じで、佐伯と社長を、
二人っきりにされたんですか!?」
七本は驚き、キューブレーキを踏んだ。
そんな七本を見て、奥様は笑っていた。
「七本さん! 安全運転でお願いします!」
「あ…すいません。」
俺の叱責に、七本は俺と、そして奥様に謝っていた。
「色々噂が有るのは、私共も存じてます。
でも、それは間違った噂なんですよ?」
「え? でも…」
「あなた方が持って要らした朔日餅は、
駅前の百貨店で買って要らした物ですよね?
でも、主人が本当に好きなのは、
伊勢の本店の物なんです。
『一緒じゃないか』と、
若い方達は思われるかもしれませんが、
私達にとっては大切な事なんです。
私達が結婚した頃は生活に余裕もなく、
式も御披露目も出来なくて、
御伊勢さんに二人だけでお参りして、
籍だけを入れたんです。
その帰りに、青福堂の朔日餅を食べたんです。
レストランや料亭の豪華な料理でなく、
それ以来、毎月一日には、御伊勢さんに行き、
会社の業績や社員、
そして社員の家族の幸せを祈願し、
帰りには必ず青福堂の朔日餅を食べてたんです。
でも、主人が事故にあって以来…
行く事が難しくなって、
主人も寂しがっていたんです。
少し鬱状態になった事もあったんですよ?
そんな時、宣美さんが朔日餅を、
買ってきて下さって…
私達は喜んで頂きました。
本当に美味しい朔日餅だった。
宣美さんの心がこもった…」