蜜月は始まらない
きちんと拭いていないのか、水分を多く含んだ髪から雫がポタポタと垂れていた。

ようやくハッとした私は、剥き出しの肩にかけられたタオルに慌てて手をかける。



「髪……っちゃんと、乾かさないと」



身長差を埋めるため精いっぱい腕を伸ばし、タオルを使ってわさわさと髪を拭いてあげた。

されるがままの錫也くんは、そんな私をぼんやり無言で見つめている。

やっぱり、眠いんだろうなあ……見た感じ、ケガとかはなさそう?

普段だったら恥ずか死にしてしまいそうな、この距離感と行動。
深く考えず自分からしている今の私も、たぶんそれなりにアルコールが回っていたんだと思う。

腕が痛くなりそうなくらい伸ばさなきゃ届かない大きな相手なのに、やってることはまるで小さい子どもみたい。

そんなふうに考えつい「ふふっ」と笑みを漏らせば、そこで彼が初めて私の存在を認識したように目をまたたかせた。



「……はなくらだ」



ふふふ。錫也くん、昔の呼び方に戻ってる。



「はい、花倉ですよー」



ますます愉快な気持ちになってしまった私は、その感情のまま笑い混じりに返した。

すると不意に、錫也くんが自分の両手を持ち上げる。

その手で、私の顔をふわりと包み込んだ。
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