蜜月は始まらない
「んっ?!」



キッチンで翌朝のフレンチトーストに使う卵液を準備している最中、大きな物音が耳に届いた。
驚いて、思わず声を漏らす。

今のガチャンって音、お風呂場から聞こえた……?

さらにその後もシャワーに混じって何かを落とすような音が何度か聞こえ、私はハラハラしながら仕込みを終える。

どうしよう、一応見に行った方がいいかな?

いやでも、シャワー中に突入するのはさすがに……!!

そうこうしているうち水音が完全に止み、お風呂場のドアの開閉音を耳が拾う。

間もなく脱衣場から錫也くんが現れたので、私はたまらず彼に駆け寄った。



「錫也くん! さっき、いろいろ大きい音とか聞こえてたけど……っ」



目の前まで来て、そこでようやく異変に気づき、固まる。

なぜなら錫也くんが、いつもとは違って上半身裸のままだったから。

いや。もしかすると、私がここに住み始める以前は、もっと気軽に素肌を出すこともあったのかもしれない。

けれど少なくとも、私が知ってる限りは、お風呂上がりですら常にきちんと衣服を身にまとっていたのに。

いつもは隠されている筋肉質で引き締まった身体が、今は眼前に惜しげもなく晒されている。

無駄な脂肪を落としながらも逞しい太さを持つ腕回り。綺麗に割れた腹筋。

無駄なく鍛え上げられたその身体に、ぼうっと目を奪われてしまうことを不覚にも止められない。
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