蜜月は始まらない
頭を、鈍器で殴られたような衝撃だった。

恐れていたことが、ハッキリと現実として重くのしかかる。

それでも……だからといって、ここですごすごと引くような物わかりのいい自分ではない。

彼女にはこの家で心穏やかに過ごしてもらい、なるべく早く心の傷が癒えるよう尽力する。

打算だろうがなんだろうが、俺と一緒にいることに価値を見つけてもらう。

そしてできれば……俺自身を、想ってもらえるように。

結局やることは変わらない。ならば、最大限自分にできることをするのみ。

花倉華乃が本気で欲しいなら、まずは広い心と視野で、今の彼女をまるごと受け入れるところから始めなくては。

……そうやって彼女がこの家に来てから今日までの3ヶ月間、ずっと過ごしてきた。

一緒に暮らすうち、華乃はもうだいぶ俺に気を許してくれるようになったと思う。

最初はもっと、よそよそしかったからな。ここでの生活に慣れてくれたからこそ、さっきみたいな鼻歌も聞けたのかもしれないし。



「このコロッケ、すごい美味い」

「ほんと? よかったあ」



口にした料理を褒めると、華乃はいつもうれしそうにとろけた笑顔を見せてくれる。

俺が積年の想いを告げたとき、彼女はどんな顔をするのだろうか。

早く見てみたい気もするし、知るのが怖いと思う自分もいる。

どちらにしろ──俺はもう、彼女を離してやる気なんてさらさらないのだけど。
< 145 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop