蜜月は始まらない
◆ ◆ ◆
そして迎えた、華乃との約束の日。
愛車の運転席でシートベルトをつけながら、俺は助手席に座る彼女を横目でうかがう。
「本当に、そこでいいのか?」
もう何度も確認してはいるが、出発前最後の念押しとばかりにそのセリフを口にした。
華乃は俺と目を合わせ、迷いなくうなずく。
「うん。ごめんね、疲れてるところ運転してもらって……」
「いや、別にそれは気にしなくていいんだけど」
なんとも言えない思いで華乃を見つめたまま、それでも即答する。
疲れてる、と彼女が考えるのは、俺が今日午前中の早いうちに新幹線で遠征先から戻ったうえ、ホーム球場での練習もこなしてきたからだろう。
けれどこんなスケジュールは、いつものことだ。彼女が気に病むことはない。
ただ、俺が引っかかっているのは……。
「その……もっとこう、遊園地とか、水族館みたいな賑わってるところに行かなくていいのか? しかもF公園って、かなり近場だし」
「いいの。ね、早く行こう?」
「……華乃がいいなら、いいけど」
釈然としないながらも、笑顔の彼女にかわいらしく急かされて車のエンジンをかけた。
それから20分も走らないうちに、目的のF公園には到着する。
存在は知っていたが、訪れたのは初めてだ。