蜜月は始まらない
「どーぞ花倉さん、ミルクティーです」

「あ、ありがとう、根本さん」



恐縮しきりながらマグカップを受け取った私に、渡してくれた彼女自身は表情を変えず「いいえ~」といつもの間延びした調子で応える。

随所に若い女の子らしい趣味が垣間見える部屋の真ん中、四角いローテーブルの前で膝を抱えていた私の隣へ、根本さんもマグカップを手に腰を下ろした。



「いやぁ、それにしても驚きましたねぇ。まさかあの真面目一直線な花倉さんが家出してくるとは」

「ごめんね根本さん……巻き込んじゃって」

「いやいや、それは全然いいんですけどー。今ちょうど家族みんな出かけて誰もいないし」



あっけらかんと言いながら、根本さんは私と色違いなマグカップの中身にふうふう息を吹きかけている。

時間が経って落ち着いてくると彼女に対する申し訳なさばかりが募って、私はますます身体を縮こませた。



「ありがとう、急な連絡だったのに匿ってくれて……本当に助かっちゃった」



言ってから、両手で包むように持っていたマグカップを傾け口をつける。

根本さんが淹れてくれた温かいミルクティーはほんのりハチミツの味がした。

ひとくち飲み込むと、こわばっていた身体からホッと力が抜ける。



「いつもお世話になってますし、匿うくらいなんてことないです。けど花倉さん、話聞く限りじゃこの件はそんな深刻に考えなくても良さげな気がするんですけどねぇ」

「うん……?」



彼女のセリフに、私は首をかしげた。
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