蜜月は始まらない
なんだ……本当に、ただ勝手に私が勘違いして、突っ走っちゃってただけなんだ。

浮かんでいたはずの涙は、いつの間にか引いていた。

誤解が解けると、今度はこの状況が急に恥ずかしくなってくる。

右手はまだ、錫也くんにしっかりと掴まれたままだ。

こんなに近い距離に大好きな人がいて、今さら私の心臓が暴れ出す。



「……じゃあ華乃には、俺にキスされた記憶がずっとあったんだな」



降ってきた彼の声に、いつの間にかうつむいていた顔をそっと上げた。

目が合った瞬間、鼓動がさらに速まった気がする。



「あ……」

「華乃の方こそ、本当はずっと嫌だったんじゃなかったのか? 俺と一緒に暮らし始めてからも、まだ元カレのことを好きだったんだろ」

「え?」



予想外すぎる言葉に目を丸くした。

今はなぜか、錫也くんの方が辛そうな顔をしている。



「華乃がここに来て1ヶ月くらい経った頃、ソファで寝てた俺のそばでスマホ見ながら『やっぱり好きだなあ』って言ってただろ。あれ、元カレからのメッセージを読んだりしてたんじゃないのか?」

「え……あ、えっ、あのとき錫也くん起きてたのっ?!」



少しの逡巡のあと彼の言う出来事に思い当たり、動揺でつい大きな声が出た。

こくりと首肯した錫也くんを前に、私は思いきり焦る。
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