蜜月は始まらない
錫也くんが目を丸くする。

何か言おうとしたのか唇が薄く開いて、だけどすぐにまた閉じて。

それから顔がうつむき加減になったから、表情がよくわからなくなる。

ちゃんと、届いたのだろうか。

私のこの想いは、伝わったのかな。

バクバクとうるさいくらい高鳴る鼓動を聞きながら、永遠にも感じる沈黙に耐える。

おそらく時間にしたら数秒だったんだろうけど、いよいよ私が泣き出しそうになったところで錫也くんが顔を上げた。



「今度こそ、夢じゃないのか?」



困ったような顔でそんなことを言う彼に、不謹慎にもふはっと笑ってしまった。

夢で片付けられちゃ、私の方が困るなあ。

さらに言葉を尽くそうと口を開きかけたら、それよりも早く錫也くんの右手が私の頬を包んで息を飲む。



「……都合のいい夢は、もうたくさんだ。あとから虚しくなって、もっと欲しくなるだけだから」



切なげに顔を歪めて、彼が言った。

すり、と頬を撫でる手のひらの熱さに、私の体温も上がる。



「夢じゃ……ないよ。好きなの、錫也くん」



彼がまばたきをした。綺麗な黒い瞳には、私だけが映っている。

ふっと錫也くんが、今にも泣き出しそうに頬を緩めた。
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