蜜月は始まらない
「……こんなに拗れるんだったら、余計なこと考えないで、最初に全部言っとけばよかった」



余計なことって? 最初って?

私が疑問に思うより先に、彼の唇が動く。



「好きだ。華乃が思うよりずっと、俺は華乃しか見てなかった」



……うそでしょう。

反射的にそう思ってしまったのが、表情に出ていたのだろうか。

錫也くんは眉を寄せ、諭すように続ける。



「言っとくけど、この期に及んで“元クラスメイトとして”とか“同居人として”だろとか、そういう的外れなこと考えてたらさすがに傷つくぞ」



なんてことだ。彼は見事に私の頭の中を読んでみせた。

私は言い訳を探して、錫也くんに頬を包まれたまま目を泳がせる。



「や、だって……錫也くんは、あの頃のまま……高校生のときから、今もずっと、かっこよくて……私なんかじゃ隣に立つのが、申し訳なくて」

「“あの頃のまま”? そんなわけないだろ」



顔をしかめた彼が、吐き捨てるように言った。



「今の俺がおまえに向けてるのは、ガキの頃みたいな綺麗な気持ちじゃない」



私の頬から顎先へ、その手が動く。

顎を固定されたまま親指で下唇を撫でられると、背筋に電気が走ったように震えた。



「抱きしめたい。キスしたい。それ以上のことだってしたい。その細い腕を掴んでベッドに縛りつけて、俺の名前しか言えなくなるくらいめちゃくちゃに蕩かしたい。俺の『好き』は、そういう『好き』だ」



淀みなく語られるいつもより乱暴な言葉は、本当に彼のものなのだろうか。

情欲が滾るその瞳に身がすくんで、ごくりと唾を飲み込んだ。

もはや心臓は、ありえないくらい早鐘を打っている。
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