蜜月は始まらない
「こわがられると思って、本当の気持ちが言えなかった。俺は自分でも引くくらい、華乃が欲しくてたまらない」



錫也くんが顔を寄せて、こつんとひたい同士が触れた。

距離が近すぎてぼんやりとしか見えないけれど、その目が不安げに揺れているのがわかる。



「逃げるなら、今のうちだ。言質は取ったから、俺はもう、遠慮しない」



言葉とは裏腹に、私の髪を梳く手はどこまでも優しい。

ああ、こういう人だ。私が好きになった、柊 錫也という男性は。

私は自分から望んで、今この場所にいる。

あなたに、想いを伝えると──そう決意した瞬間から、逃げるなんて選択肢は、もうとっくに捨ててきた。



「……それは、私のセリフだよ」



ささやきながら微笑むと、錫也くんが目を見開いた。

すぐそばにある唇めがけて、自分のそれを押しつける。

いつかの夜とは全然違う、一瞬触れただけのキスをして、顔を離した。



「私の初恋は、錫也くんなの。そして大人になってから、また好きになった。これってもう、諦めて運命だと思うしかないと思わない?」



錫也くんは、驚いた表情で私のことを見つめている。

さっきから、彼はこんな顔ばかりだ。

それが可笑しくて、いとしくて。
私は笑顔で続ける。



「2回も恋に落とされた私の愛は相当重いんだから、錫也くんの方こそ、諦めて覚悟してね」



不意をつかれた様子で固まっていた錫也くん。

けれどその顔を、ふっと緩める。
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