蜜月は始まらない
「……参った。やっぱり華乃には、敵いそうもないな」



独り言のようにつぶやいたかと思うと、口元に浮かべた笑みを意地悪なものに変えて私を抱きしめた。



「わ、」

「けど重いのは、絶対俺の方が上。そこはちゃんと憶えておいてくれ」



直接耳に低い声を流し込まれ、ドキドキが止まらない。

身体の大きな錫也くんに、すっぽりと包み込まれてしまった。

初めての抱擁にときめきつつ、そうは言われても、いまいちピンとこないのが正直なところだ。

だって、絶対私の方が先に好きになって、絶対私の方が好きでたまらないのに。

そしてここで、今さらながらじわじわと羞恥心がわき起こった。

さりげなく錫也くんから距離を取ろうとするのに、腰に回った手もさっきから髪を弄んでいる手も、私を解放してくれる気配がない。

そろそろ、恥ずかしさも限界だ。

熱い頬を持て余す私は、錫也くんの腕の中で意を決して顔を上げた。



「あの、すず──」



名前を呼ぼうとした声が途中で途切れる。

私を見つめる彼の瞳の熱に、囚われてしまったから。

端整な顔が近づいてきて、あっという間に唇が重なった。

さっき私からした、子どもみたいなキスじゃない。

今まで押し殺してきた恋情を全部流し込むような、熱くて淫靡で野性的な、荒々しいキスだった。

思考のすべてを奪われながら、それでも私も必死で応える。
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