蜜月は始まらない
苦しげな顔で物欲しそうに私の名前を呼び、頬を撫でられる。

その瞬間、嘘みたいに、私の中にあった戸惑いをうれしさが上回ってしまった。



「好き。大好きです、錫也くん」



思ったままに口をついてきた私の告白を聞いて、一瞬息を止めた錫也くんが大きく嘆息する。



「そうやって……自覚なしに理性を崩しにくるのはやめてくれ。これでも今、暴走しないように必死で抑えてるんだ」



顔をしかめてそう話す彼はたしかに辛そうで、ギリギリのところで理性を保っているのかもしれない。

だけど……そんなことをしなくても、私は──……。



「ずっと……我慢、してた。少なくとも俺は、華乃が思ってくれてるようなおキレイな人間じゃないから。感情のまま華乃に触れて、傷つけたり怯えられるのがこわい」



ポツポツと独白しながら、私の横髪を耳にかけるその手はもどかしいほど優しかった。

錫也くんが、私を大切に想ってくれている。
それは素直にうれしくて、胸の中にあたたかいものが広がった。

でも今は、彼の不安を取り除いてあげたいと強く思う。

私は大丈夫だよと、伝えたかった。
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