蜜月は始まらない
「錫也くん。私もう、何にも知らない子どもだった高校生じゃないんだよ。そんなに大事に大事に……ガラス細工みたいに扱ってくれなくたって、壊れたりしないんだよ」



自分から手を伸ばして錫也くんの胸もとに触れながら、心からの笑顔を見せた。



「私の全部あげるよ。錫也くんの、したいようにして欲しい」



丸く見開かれた目が、次の瞬間には捕食者の光を宿して私を射抜く。

噛みつくようなキスで始まって、そこからはもう、彼の独壇場だった。

官能を引き出すその指先と唇に逆らうすべもなく、私は脳の回路が焼ききれそうなほどの気持ちよさと恥ずかしさに翻弄され、身悶えながらただ声を漏らすだけ。



「今まで華乃とこういうことした男の存在を考えると、嫉妬で狂いそうだ」



そうささやいて胸もとや内腿に赤いしるしをつける唇にも、いちいち反応して身体を震わせる。

しなやかな筋肉が覆う錫也くんの素肌に腕を回して触れると、それだけで胸がいっぱいになって涙が込み上げた。

何度も求められ、そのたび快楽の海に溺れる。

もうわけがわからなくなっていた。クールな顔の奥にこんな激情を隠し持っていたなんて、反則だ。

自分が自分でなくなってしまうような感覚がこわくて、合間に、彼の名前を呼んだ。何度も、何度も。

窓の外の景色は、いつの間にか夜へと移り変わろうとしている。

その日私は腹を空かせた美しい獣に、ペロリと食べられてしまった。
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