蜜月は始まらない
「ありがとう。試合結果知ってたのか」

「あ、うん! あのね、ベースボール速報ってアプリがあって。荷解きしながら、ちょこちょこ見てたんだ」



突然の優しい微笑みにまた私は視線を泳がせ、ドギマギしながら答える。

うう、やっぱり直視できない……。

対する柊くんは「そうか」とつぶやき、少し考えるように天井を見る。



「試合の後は軽くシャワー浴びただけで外冷えてたし、まず風呂に行くべきなんだろうけど」



そこで彼が、自分の下腹に片手をあてた。



「今、めちゃくちゃ腹減ってて歩くのもやっとだ。先に夕飯もらいたい」



眉間にシワを寄せ、見たことがない少し困ったような顔をする彼は、どうやら本気で腹ペコらしい。

私はつい、笑ってしまった。



「じゃ、ごはんにしよっか。ハングリー選手、ダイニングで待ってます」

「わかった」



こちらの揶揄うような言い方にも、柊くんは素直にうなずいている。

ふふ、とまた笑みをこぼしながら、私はハングリーな彼のためのごはんを準備すべくキッチンへと向かった。

冷蔵庫からお肉を取り出し、塩コショウをしてから手早く小麦粉をまぶす。

それをフライパンで焼いている間にソース用の材料を混ぜておき、お肉の両面に焼き色がついたところでソースを投入。
よく絡めながら煮詰めたら完成だ。

あとはほかほかに炊けたごはん、あたため直した汁物と冷蔵庫にしまっていた副菜を一緒に、テーブルへと並べる。

ちょうど、洗面所から出てきた柊くんが席に着いた。
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