蜜月は始まらない
その後は一緒にパソコンを見ながら、錫也くんが受け取れる日を確認しつつネットで私の使うシングルベッドなどを購入した。

直接店舗に行こうかとも言ってくれたけど、彼の申し出は丁重にお断りする。

有名人である錫也くんを、おいそれと人の多そうなところへ連れ回すわけにいかないだろう。

ちなみに、リビングにある共用のダイニングテーブルなどはもともとこの家にあったものだ。

錫也くんがここに引っ越してくる際、チームメイトの先輩と一緒に家具屋さんへ行ったらしいんだけど……「もういつ結婚してもおかしくない歳なんだから、テーブルとかソファはふたり以上で使えるものにすれば?」というアドバイスとともに、なぜか先輩が自分より熱心に選んでくれたらしい。

使う本人を差し置いて店員さんと軽快にトークする先輩と、なんだかよくわからないながらもとりあえず隣に立っていた錫也くんの図。
想像してみるとおもしろい。

しかも、ふたりとも体格のいいプロ野球選手……ちょっと、その買い物風景見てみたかったかも。 


錫也くんの部屋は私のものより少し広くて、リビングから繋がる洋室だ。

前回来たときと、今日と。私は一度も、そこに足を踏み入れてはいない。

この生活は“同居”だ。お互い好き合っているものがする、“同棲”とは違う。

抱き合って眠ることはない。さっき錫也くんが私をからかって言った、「一緒にお風呂に入る?」もありえない。

私は彼の生活を守るためだけの存在としてこの場にいられるということを、忘れてはいけないのだ。
< 54 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop