蜜月は始まらない
持て余していたこの感情にまさかの急展開が訪れたのは、昨年の12月のことだ。

その日俺は、とある居酒屋で高校時代の部活仲間たちと久々に酒を酌み交わしていた。

オフシーズン、特に秋季キャンプを終え自主トレを始めるまでの1番身体が空くこの時期は、友人たちからひっきりなしに飲み会への誘いの声がかかる。

シーズン中はなかなか予定を合わせられない分、このときばかりはできる限り顔を出すようにしているのだ。

もうすぐ三十代ともなると、集まった友人たちの中にはすでに家庭を持っている者も多い。

俺はといえば、色恋沙汰に関しては相変わらずのドライっぷりで。
この頃には別にこのまま一生独り身でもいいかもしれないな、なんてまるで他人事のように考えていた。



『な~錫也さあ、高3とき同じクラスだった花倉さんてコ覚えてる?』



ふと思い出したようにそう尋ねてきたのは、テーブルを挟んだ向かい側で機嫌良くビールジョッキをあおっていた友人のひとりだ。

突然話題に上った聞き覚えのある名前に、ドキリとする。この男とは、高2、高3時クラスメイトでもあったのだ。

俺は努めて平静を装いつつ答えた。



『覚えてるけど。花倉がどうかした?』

『いやー、なんか今急に思い出したんだけどさ。今年の夏に、同窓会あったじゃん? おまえは来れなかったけど』

『あー』



そういえば連絡来てたなと思い返しながら、適当に相づちを打つ。

高校の同窓会は、たいていがお盆休みの時期にぶつけていることが多い。

絶賛シーズン中の俺は、卒業以来2~3年に一度のペースで開催されているそれにほぼ出席できていなかった。
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