蜜月は始まらない
そしてさらに数日後、決定的に俺を突き動かす話が舞い込んでくる。



《高校で同級生だった、花倉華乃さんとお見合いしてみない?》



突然の、母からの電話だった。

俺は新居になるマンションで片付けをしていた手を止め、思わず宙を仰いだ。

こんな、都合のいいタイミングで。こんな、都合のいい話。

これまでの人生それほど徳を積んだとも思えない自分に、なぜ訪れてしまったのだろう。

ずっと逃げてきた。
自分の中にある計り知れない感情からも、彼女からも。

けれど今、俺にとって聖域だった彼女が手に入るかもしれないとわかったとたん、無理やり眠らせていた想いの化けの皮が剥がれていく。



『……わかった。その見合い、受ける』



“今さら”? “笑っているならそれでいい”?

自衛のための建前なんてもう知るか。

連絡先を交換して、まずは友達から……なんて、そんな悠長なことをする気も毛頭なかった。

何もできなかった高校時代と同じ轍は踏まない。

このチャンスを逃さない。今度こそ、手に入れる。
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