デキる女を脱ぎ捨てさせて
「連れて帰ると離せなくなるから自粛してたんだけどね。」

「崇仁さん?」

 彼は幾度となく聞こえるか聞こえないかくらいの声で何かを呟いた。

 意味はつかめなくても雰囲気で良からぬことを言っていることは伝わってくる。
 けれど私の訴えはするりとかわされてしまった。

「さぁ行こう。
 花音の温かい手料理が食べたいよ。」

「私は崇仁さんの上品な煮物が食べたいです。」

「そう?作るよ。
 あぁ、でも食べるのは朝だね。
 晩ご飯はこれがある。」

 ゆっくり食べれないだろうから今日のところはって店主のおじさんが持たせてくれた。
 倒れないように後部座席に固定して置いてあるお惣菜の数々。

「いつになったら『だんだん』で食べれるんだろうな。」

「本当。」

 私たちは顔を見合わせて笑い合った。
 車はゆっくりと彼のマンションの方へと動き出した。

< 202 / 214 >

この作品をシェア

pagetop