デキる女を脱ぎ捨てさせて
「俺の周りには倉林の名前に目が眩むような人ばかりだったからね。
 願望もなくなるだろう?」

 彼は私のおでこに自分のおでこを擦りつけた。

「それは贅沢なお悩みで。」

 私は未だにふとした瞬間の崇仁さんの表情にドキドキしっぱなしですけどね。

 そんなこと口に出せなくて代わりに可愛くないことを口にしても崇仁さんは優しく微笑んだ。

「そういうのを全部取っ払っても花音とは一緒にいたいんだ。」

 そっとキスをされて胸がいっぱいになった。

 結婚願望がなくて例え結婚できなくても。
 彼の側に居られればいいって思ったばかりなのに。

 甘い雰囲気を纏う彼に酔って、とんでもないことを口にしそうで彼の体に顔をうずめた。

 すると彼の方がとんでもないことを口にし始めた。

「このまま俺のマンションにおいで。
 こっちのマンションに来たことないだろ?」

 あの情熱的な週末からまだ一度も彼とはそういうことになっていない。

「あ、明日も会社ですし。」

 このまま離れたくない、とは思っていたけれど……。

「何を想像しているの?」

 フッと笑う彼に居た堪れない。

「いえ、あの、……意地悪です。」

「フフッ。想像通りになるだろうけど。」

「え、今、何か悪いこと呟きましたよね?」

「いや。何も。」

 彼は笑いながらもハンドルに手をかけた。
 地元での運転は庶民的な車の方。

 この車に乗る彼だって十二分にカッコイイから困ってしまう。

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