御曹司は眠り姫に愛を囁く
二人でベットに入り、彼が私を組み敷く。

欲を孕ませた鋭い瞳で私を眺め下ろして、彼は唇を落とす。
キスを繰り返しながら、彼の手がバスローブの中へと滑り込む。
素肌に触れる彼の指先に慄く。

恋人特有の愛の囁きはなく、唯囁かれるのはこっちが恥ずかしくなるような不埒な言葉ばかり。

甘い雰囲気もなく、彼はひたすら己の欲を吐き出すように動くだけ。


鼓動と官能は高まるが、愛のない分、心にぽっかりと空洞が出来て、行為に対して集中力を欠いた。肌と肌はこんなにも密着していて熱く、彼のカラダの一部が私の中に息づき、存在と圧迫感が増していくと言うのに。


心の空洞は一条の光すら入らないやるせない闇の色に染まっていく。

行為が終わると、彼は私に見向きもせずに上体を起こして、煙草を吸い始める。
私は気怠いカラダに甘い苦味を感じた。


「丁度良かった。最近、相手する女性は俺が椎名家の御曹司だと分かると目の色変えて、困っていた。
見合い話って、まだ具体的じゃないんだろ?
俺の話もまだ・・・具体的じゃない。
凛音。いいよな・・・」

「・・・」

「君は俺に傷つけられるのを望んでいるのだから・・・」

これは序章に過ぎなかった・・・






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