おはようからおやすみを笑顔で。
それから数日後。私は斉野くんに誘われ、仕事終わりに彼と、駅前で待ち合わせしたのだけれど……。
「すっ……ごい華やか……」
彼に連れてこられたのは、その駅に隣接する、四十階建ての複合ビル。
有名なビルのため、ビルの存在自体はもちろん知っていたものの、実際に入るのは今日が初めてだし、まさか自分がこんな高級ビルに足を運ぶ日が来るとも思っていなかった。
今日は、このビルの三十階にあるフランス料理店を予約してあるのだと彼は言う。
「おい、あんまりキョロキョロしてんなよ。恥ずかしいだろうが」
エントランスホールのエレベーターを待ちながらそわそわと落ち着かない様子の私に、斉野くんはいたって冷静に声を掛けてくる。
「だ、だって想像以上に煌びやかなんだもん!
ていうか、ここに来る予定だったのなら前もって教えておいてよ! 私、だいぶ普段着で来ちゃったよ⁉︎」
「格好なんて、ジーパンじゃなきゃなんでもいいんだよ」
彼がさらっとそう答えたのとほぼ同時に、エレベーターが到着する。
中から何人かが降りてきて、エレベーター内が空になったのを確認してから、今度は私たちが乗り込んだ。
このタイミングで乗り込んだのは、私と斉野くんだけだった。二人きりのエレベーターが、静かに一気に三十階へとのぼっていく。