おはようからおやすみを笑顔で。
小学生の頃から、ずっと沙耶のこと好きだった。

勉強も運動も出来て、おまけに一流芸能人並みの抜群のルックスとスタイルを持つ彼は、今までの人生で異性から好意を寄せられてばかりだった。
だから沙耶以外の女性とのかかわりは勿論あったし、沙耶のことを忘れようとして、凛花以外の女性と付き合ってみたことも何度かあった。
しかし、やはり無理だった。誰と一緒にいても沙耶のことばかりを考えてしまっていた。


そう、まさに今も。沙耶のことを考えていたら溜め息をこぼしてしまった。


「斉野さん、疲れてるんですか? 溜め息なんて吐いて」

背後からそう声を掛けてきたのは、後輩の白井だった。
彼は以前、斉野と沙耶が本屋の前で再会した時に一緒にいた男だ。
実は彼もまた、斉野と同じようにキャリア組として入庁したエリートなのだが……いかんせん、態度がチャラチャラしており、上司からの信頼が厚い斉野は、白井がいつか問題を起こさないように見張るという役を密かに任されていた。


白井は、斉野の隣の空いているデスクに当然のように腰をおろすと、熱そうなコーヒーカップに息を吹きかける。

キャリア組での彼らの仕事は、現場に赴いて動くことより、関係省庁から全体の指揮を取ったり、書類仕事などのデスクワークが中心だ。
……しかし、言うまでもなく機密情報が満載の重要書類ばかりなので、ここでコーヒーなんか飲むなーーと斉野が口を開こうとした、その時。


「そう言えば俺、昨日あの子見かけましたよ! ほら、前に本屋で斉野さんと話してた子!」


白井の口からそんな言葉が飛び出してきて、斉野は思わず「えっ?」と聞き返した。
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