戦乱恋譚
ゴォォォッ!!!
「きゃっ!!」
空から降る大雨を巻き込むように、轟々と吹き荒れる風。
嵐のような天候に、ざわざわと木々が揺れたその時。まばゆい光が境内を包んだ。
パァン…!
その中から現れたのは、艶のある毛皮を肩にかけた、翠色の瞳の“青年”。
(…っ。)
彼の姿を見た途端、全員が息を呑む。すらり、とした和装に身を包んだ彼は、タン、と地面に降り立った。
『…私を呼び出したのは、貴様か。』
彼は、十二代目を見つめ、ゆっくりと口を開く。威厳のある低い声と震え上がるような神の気迫に、ぞくり、とする。
十二代目は、まるで何かに取り憑かれたかのように彼へ歩み寄った。顕現録に書かれたその折り神の名前に目を通すと、十二代目の顔つきが変わる。
「そうだ、私がお前に体を与えた主だ!…“朧(おぼろ)”。お前には、私の駒となってもらう…!」
ズゥン…!
十二代目の霊力が、朧を包んだ。禍々しい気が境内に広がる。
「まずい…」
綾人が、その光景を見て焦った表情を浮かべた。伊織と共に彼の方を見ると、綾人は素早く口を開く。
「一度名を知られた折り神は、どんなに格が高くても、主の命に逆らえなくなる。…本来、神が主に名を渡すということが信頼の証だが…顕現録にはそれがない。」
(!)