戦乱恋譚

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「……ん…」


ピッ…ピッ…ピッ…


心拍を計測する電子音が、病室の中に小さく響く。ゆっくりと目を開けた彼の瞳が私を映した。


「…!伊織…!!」


「…華…さん…?」


病室のベットの上で私の名を呼んだ彼は、ぼやけた瞳のまま、きょろり、と辺りを見回した。

真っ白なカーテンと、見慣れない大きな機械。自分の腕に繋がれた複数のチューブを見て、彼は驚いたように、ぱちり、とまばたきをした。


「ここは…?」


「“病院”だよ。怪我や、病気を治療する施設のこと。こっちの世界に来てすぐに、私のお世話になっていた院長さんのツテで、いいところを紹介してもらったの。」


「…?“こっちの世界”…?」


きょとん、とする伊織に、私は優しく言葉を続けた。


「ここは、私の住んでいた世界。伊織は、私と一緒に“トリップ”してきたの。」


「…!!」


ぱたん、と腕の力を抜いて放心状態になる伊織。しかし、すぐに目を輝かせた彼は、頰を微かに染めて興奮したように言った。


「すごいです…!ここが、華さんの世界…!!」


子どものようにきょろきょろし出す伊織。そんな彼が微笑ましくてくすくす笑っていると、起き上がろうとした彼が、ピキン!と体を強張らせ、顔を歪めてベットに沈んだ。


「あ、だめだめ。まだ手術をしたばっかりだから。」


「しゅ…?」


「伊織の体にあった腫瘍を摘出してもらったの。あと、心臓の検査と肺炎の治療もね。」


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