戦乱恋譚


ふっ、と穏やかな“素”の表情を浮かべた彼に、私は、ほっ、とする。

すると、伊織がとんとん、と私の肩を叩いた。私は、顕現録を見せる彼に頷く。


「…?」


私たちの無言の会話に、きょとん、としている綾人。私はそんな彼に、向こうの世界で用意していた“あるもの”を手渡した。

それを見た瞬間、彼の碧眼が大きく見開かれる。


「これは…“手裏剣”の依り代…?」


それは、伊織の持っていた和紙で折られた、“手裏剣”だった。しかし、ただの依り代ではない。


「これは、“八方手裏剣”。八当分した和紙を折り重ねて作る手裏剣なの。…私に手を貸してくれたお礼に、これを渡すわ。この新しい手裏剣なら、“重ね”として佐助を呼び出せるかもしれない。」


「…!」


私の言葉に、綾人の瞳が動揺したように揺れた。わずかに震える指が、手裏剣の依り代をなぞる。

十二代目の罠にはまり、姿を消した綾人の折り神。綾人は、顕現を迷っているように見えた。

皆の視線が綾人に集まる。

すると、そんな視線に背中を押された彼は、小さく息を吐いて、覚悟を決めたように口を開いた。


「“我に仕えし、式神よ。その御霊を祀りし依り代の、力を授かりて、再現せよ”」


ゴォォォッ!!!


彼の声に、手の中の依り代がドクン!と脈打った。八方手裏剣が光に包まれる。


「“折り神、重ね!”」


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