戦乱恋譚


そう強く心に決めながら、適量のお酒を一口飲んだ。長机に並ぶ美味しそうな料理に、ごくり、と喉がなる。


「…また、こんな賑やかな宴の光景が見れるなんて、夢にも思いませんでした。」


そう呟いた伊織は、ゆっくりと目を細めた。死の覚悟を決めていた伊織にとって、今ここに自分がいることは奇跡みたいなものなんだ。

私も、自分が彼と同じ時間の流れの中にいることを改めて幸せに感じる。

咲夜さんも、銀次さんも、伊織の病を知っていた人たちは、全員そう思っているはずだ。

…今夜は、ただの宴ではない。開かれることなどなかったかもしれない、幻の宴なのだから。


『姫さま!どうぞっ!』


「あ。ありがとう!」


料理を取り分けた小皿を差し出してくれた虎太くん。千鶴が料理を口に運びながらしみじみと呟く。


『なんか、姫さんがここにいるのが不思議な感じだな。てっきり、伊織だけが帰って来るのかと思ってたからさ。』


すると、こくり、と酒を一口飲んだ花一匁が、ちらり、と私を見た。久しぶりに見た色気のある流し目に、どきり、とする。


『主人が帰って来るのは当たり前だろう。…そろそろ俺に構ったらどうだ、姫。こっちは一ヶ月も放っておかれたんだぞ?もう待ちくたびれた。』

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