戦乱恋譚
するとその時。なにかを考え込んでいた伊織が、無意識のように、ぽつり、と呟いた。
「…千鶴達が羨ましいな。俺も華さんの折り神だったらいいのに。」
「え?」
「…俺も、華さんに撫でられたい。」
どっかん!
心臓が爆発しそうになった。いや、もうとっくに破裂したのかもしれない。
な、なんだ、この可愛い生き物は。いつもはしっかりしてて頼り甲斐がある彼が、急に“歳下の特権”をフルに使って甘えてくるなんて。
(ふ、不意打ちすぎる…!)
巷で噂の“ギャップ萌え”とはまさにこのことだ。ぐらぐらに揺さぶられた理性を奮い立たせ、私は彼を見上げる。
「…あ、あの。伊織、酔っ払ってる?」
「……ちょっとだけ。」
熱を持った白銅の瞳が、とろん、としている。いつもより無防備な彼の姿に、心臓が鳴り止まない。
もしかして、私が折り神達を撫でていた時から、ずっとこんなことを思っていたのだろうか。そう思うと、顔に出さないようにお酒を飲んでいたあの時の彼が愛おしい。
「…いいよ。おいで、伊織。」
「!」
優しく手を伸ばすと、彼はこつん、と私の肩に寄りかかった。さらさらとした亜麻色の髪に指を通すと、伊織はくすり、と笑って目を閉じた。
「…こんなの、他の人には見せられないな。」
彼の中にある当主の“威厳”とやらが、そう言わせたらしい。しかし、初めて私に甘えた彼は、まんざらでもない様子でしばらくそのまま私の肩に体を預けていた。
こんな彼の姿を知っているのは、私だけ。…ずっと、私だけに見せてくれればいい。