戦乱恋譚


「…“華”。」


ふいに名前を呼ばれ、彼を見た。二人っきりの時に、たまに出る“素”の伊織。敬語を外した彼は、一瞬だけ私の唇を掠め取った。

不意打ちのキスに目を丸くしていると、熱を帯びた彼の瞳が私をまっすぐ映す。


「…だめだ。俺も触りたい。」


(!)


するり、と頰を撫でた彼の指。後頭部に回された手が、ぐっ、と私を引き寄せる。

甘い予感とともに、伊織がまつげを伏せた。求めるような口づけに、息が上がる。重なった唇の合間から吐息が漏れた。

肩から背中、腰へと滑るように私の体をなぞる伊織の指。くすぐったい、というよりも気持ちいい。完全に頭がぽーっ、としてきた。

酔っているせいか、いつもよりキスが長い。求めるように絡められる舌が熱くて、とろけそうになる。


「…っ、は……」


軽い吐息とともに伊織が離れた。完全に甘い空気に呑まれた私に、彼は耳元で囁く。


「……ごめん、我慢できない。…もっと触っていい…?」


「…!」

< 174 / 177 >

この作品をシェア

pagetop