戦乱恋譚
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…ギシ…
ゆっくりと、布団の上に華の体を下ろす。軋む音を立てる畳に、ふっ、と彼女が目を開けた。
「…伊織…?」
「…!すみません、起こしてしまいましたか。」
ぼんやりとする彼女の瞳が、伊織を映した。わずかに動揺する伊織は、しどけない彼女を直視しないように、視線をそらす。
「水でも持ってきましょうか。二日酔いは厄介ですから…」
…と、その場から離れようとしたその時。くいっ、と伊織の着物を彼女が掴んだ。
「…大丈夫。…大丈夫だから、まだ行かないで…」
「…!」
ぎこちなく布団の側に座る伊織。自分を引き止めた彼女の真意が分からず、伊織は戸惑った。
“まさか据え膳を食わないのか、お前は。”などと思われているのだろうか…、とまで考えてしまう。
すると、まだふわふわとした酔いの中にいる彼女は小さく呼吸をこぼした。
「…実は、伊織に聞こうと思ってた…ことがあって…」
「俺に、ですか…?」
華の瞳が、伊織をまっすぐ映す。数十秒の沈黙の中、彼女の唇が言葉を紡いだ。
「…伊織には…私の他に、奥さんにしたい人はいないの…?」
伊織が、はっ、と目を見開いた。
それは、普段の華なら決して口にしない問いだった。
昼間、伊織が華に過去の恋愛を聞いた時も、自分のことはすらすらと喋ったものの、彼女はこちらに踏み込んでくることはしなかった。
それが、こんなところで揺さぶられるなんて。
「…俺は、生涯そういう方を作らないと決めているんです。」
「…!」