戦乱恋譚
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『おい千鶴。姫がいつのまにか潰れておるぞ。』
『あ?なんだって?』
花一匁と千鶴が、そっ、と主の元へ集まった。すやすやと寝ている彼女をみて、目を細める。
とことこと歩み寄ってきた虎太も、千鶴の背からひょっこり顔を出して華を見つめた。
折り神たちは口々に呟く。
『…姫さま、起きそうにないですね。』
『…姫さんは酌を断らないで飲み続けてたからなぁ。』
『…姫は無防備すぎるな。これだから人間は。』
千鶴が『仕方ねぇ。部屋まで運ぶか。』と立ち上がろうとしたその時。すっ、と彼らの前に影が現れた。
彼女を軽々抱き上げたのは、伊織である。
「…だめ。それは“夫”の仕事だから。」
『『『!』』』
華を抱きかかえたまま、潰れた使用人達を跨いで出て行く伊織。その背中を見送った折り神たちは、複雑な心境で黙り込んでいた。
花一匁は、桜色の瞳を細めてぼそり、と呟く。
『…なぁ千鶴。あの男は帰ってくると思うか。』
『あれは、使用人達に“夫婦関係”を見せつけるためにわざと連れ出したんじゃないのか?』
『あの声が演技の延長な訳なかろう。明らかに公私混同の手だ。』
千鶴は、そんな彼の言葉にわずかに目を細めた。
『…確かに、酔った姫さんから仕掛けたら分からんかもな。』
伊織は、流されたりするような奴ではない。
それはよく分かっているが、千鶴も伊織が華に対してだけは特別な感情を抱いている雰囲気を感じることがままあった。
『…?何の話ですか?』
首を傾げた虎太だけが、頭上の二人の会話を理解していなかった。