神様には成れない。


どんな小さな声も逃さないように静寂が辺りを包んでいた。静かに息を吐いて吸い込む。


「――淵くん」


名を呼び、触れていいかの確認もせずに今度は私から手を伸ばし、指を絡める。

触れた肌と肌が温かく、心地よい。


「瀬戸さん?」


淵くんはやはりそんな事に動揺などするはずもなく、首を傾げて黒い髪を揺らした。

揺れそうになる瞳を堪えて、前髪の奥の瞳をジッと見据える。


「……正直、死んだ後の話は私には分からないし、考えても……とは思う。でも私にその理解が難しいように、淵くんにも理解が及ばない事だってあるんだろうね」

「?そうだね。価値観は人それぞれだしね。俺だって理解してもらえるとも考えてなかったし」


その言葉を聞いて淵くんは独りなのだと感じる。

人は人で自分は自分。

見た目は人当たりが良さそうなのに、中身は他人になど興味はない。

それでも今、過程はどうであれ私に向き合ってこうして話をして感情を向けてくれている。

正直な胸の内を明かしたのだ。


「淵くんは、意外と不器用だね」


向けられた感情は正しくも綺麗でもなく複雑だけれど、それでも独りぼっちで不器用に生きる彼に手を差し伸べたかった。



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