神様には成れない。


私を引き止めるように、手首を掴む。指が簡単に手首を回ってしまい、改めて彼は男の子なんだと何故か認識をする。


「自惚れなんかじゃないよ」

「……!」


彼はするりと手を滑らせてそのまま指と指を絡める。

声を上げる事もおろか、呼吸をするのも最低限に、固まるように真っ直ぐ見つめる彼の目を見ていた。

黒い瞳に釘付けになる。


「――ううん。自惚れでもいいから、好かれてるって自信もってよ。……俺の事好きでいてよ」

「は、はい……」

「はい。って」


改まって返答をしたのが面白かったのか、彼はクスクスと笑いを零してコツン、と額と額をくっ付けた。


「ち、ちか、い……よ」


切れ切れに発するのが精一杯で、私は更に息を殺す。

視線を左に投げれば目にはもう彼の瞳は映らない。耳からは彼の規則的な息遣いが聞こえる。額は熱い。

私の手は落ち着きなく指先が動くのだが、彼の指先は私を離さないようにしっかりと握り込まれている。


「ん~~……ちょっとだけ」


体を後ろに下げようとすれば引き留めるかのようにそう言われ、動くことを躊躇ってしまう。

彼はまるで猫が擦り寄るかのように身じろぎをする。

衣擦れの音が、妙に大きく聞こえた。

彼は突拍子もない行動をよくするけれど、そんな行動に慣れるはずもない。


「――なーんか…なんだろーな……」


不意に落とされた言葉は独り言のようで、それでもこんなに至近距離にいれば確かに耳に届く。

私は逸らした視線を今一度彼の方へ寄せる。

しかし、彼と目は合うこともなく伏せられた瞼が映るだけだった。



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