神様には成れない。
自分の手を弄びながら、ポツリと零された言葉はゴンドラ内に妙に響いた。
「最初に告白した時よりもずっとずっと、瀬戸さんの事好きな筈なんだけど、どうしても根本は変わんないから」
「そんな事……」
「瀬戸さんと一緒にいると楽しいし落ち着くのに、変わらずに平常心でいる自分が気持ち悪くてさ。それでも、瀬戸さんが目に分かるくらい意識してくれると嬉しくて」
表面上の彼はそんな様子を微塵にも見せていないのに、やはりずっと問題として抱えてしまっていたものは、尾を引き続けるのだろうか。
そんなに人に――“私”に触れる事に何かを思う必要があるのだろうか。いいや、もしかするとそれが分かりやすく心を動かしている証拠となるのだ。
それでも彼は“好きだ”と言ってくれる。そうやってまだ思い悩んでくれる。今日だって私の事を考えて、私と一緒に楽しんでくれた。
そこに嘘などない筈だ。嘘になどしたくない。
彼は前に付き合っていた彼女の事が、未だに傷になってしまっているのかもしれない。
人の傷を癒すのは難しい。そう思うのに
「……っ、淵くん」
癒せない程の傷を彼につけた彼女が羨ましいだなんて。
まだ彼女を想っているような錯覚すら覚えて、嫉妬のような渦が巻き起こる。
「っ!ごめん、変な話して!楽しくなくなっちゃうね。――忘れて」
それでも私の心臓は彼に触れる事に、過剰に反応するのだ。
彼は私のもので、私も彼の物なのだ。
「……瀬戸さん?」