Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「あ…」

 雨宮が撫でているのが、自分の涙の跡だと千紗子は気付く。
 泣いていたことを彼に悟られてしまって、なんだか途端に居心地が悪くなった。それと同時に、どうしても雨宮に心配を掛けてしまう自分が、千紗子は情けなかった。

 「さあ、もう寝よう。明日は仕事だ。」

 パソコンを閉じながらそう言った雨宮が、千紗子の方に向き直った。
 そして、ソファーに座っている千紗子を、ひょいと、まるで子どもを抱えるように両脇に手を入れて持ち上げた。

 「きゃあっ!」

 いきなりのことに千紗子は小さな悲鳴をもらす。
 千紗子を抱え上げた雨宮は、なんてことない様子でスタスタと廊下を歩き出した。
 
 寝室のドアの前で雨宮が立ち止まる。
 ドアノブに手を掛ける彼を、千紗子は混乱した頭で見下ろした。

 (雨宮さん、いったい何がしたの!?)

 ドアを開いて寝室に入った雨宮は一直線にベッドを目指す。

 千紗子は口に出す余裕がないほど、ものすごく動揺していた。
 
 (ど、どうしたら!?とにかく離してもらわないとっ)

 雨宮の腕から逃れようと身を捩ったところで、千紗子はベッドに下ろされた。

 「千紗子。」
 
 ベッドサイドから見下ろしている雨宮の、立ち昇る色香に千紗子は眩暈を覚えた。
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