Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
一昨日の夜、美香と別れてから起きた出来事を、千紗子は美香に話した。
裕也とショッピングモールで遭遇したくだりでは、言葉が詰まってうまく話すことが出来なかったけれど、それでもなんとか事の顛末を話し終えることが出来たのは、美香が急かすことなく静かに耳を傾けてくれたからだろう。
「そう…そんなことになってるなんて…、大変だったわね、千紗ちゃん。」
話し終えた千紗子の背に、美香の手が添えられる。
その小さな手からは千紗子を労わる気持ちが伝わってきて、千紗子の心がじんわりと温かくなった。
「ほんと、辛かったわね。でも、雨宮さんが一緒で良かったわ。千紗ちゃん一人だったらどうなってたことか…。」
雨宮に言われたことと同じことを美香が言う。
「はい。」
「でも、あの雨宮さんが千紗ちゃんを自分の家に泊めるなんて、びっくりしたわ。」
「そ、そうですね…私がよっぽどひどい状態だったから雨宮さんも捨てておけなかったんだと思います…。」
「う~ん…そうかしら…。」
あの夜雨宮の家に泊めてことは美香に話したけれど、そのあと二人の間にあったことは話せなかった。
もちろんその彼から告白されたことも、そのまま彼の家に置いてもらっていることも、だ。
そんなこと、話せるはずもない。
恋人の浮気現場を目撃したあと、他の男性に肌を晒したなんて、たとえ夢の中だとしても千紗子には口に出せることではない。
いくら仲の良い美香にだってそのことを話すつもりはなかったし、自分の中でもあの一夜は遠く霞んで夢の中の出来事のような気すらしているのだ。
「陽が当たるけどやっぱり寒いね。もうそろそろ行かないと、就業時間だわ。」
言われて腕時計に目を遣ると、就業十分前になっていた。
朝陽の当たる小道を今度は二人で足早に急いだ。