Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
図書館に駆け込んで急いで制服に着替えてから事務所に滑り込むと、就業二分前の滑り込みセーフだった。
「お、おはようございますっ。」
事務所には美香と千紗子以外の早番メンバーは全員揃っていて、息を切らして入って来た二人に挨拶が次々に返ってくる。
「木ノ下さんがギリギリなのは珍しいわね。」
「は、はい…すみません。」
「遅刻じゃないんだから謝らなくてもいいのよ。」
図書館員としてはベテランのパート職員の柴田さんににこやかに言われる。
「河崎さんは、珍しくないしね。」
「柴田さんっ、それは言わないでくださいよぅ。」
困った顔をした美香がそう言うと、周りがドッと笑った。
和やかな雰囲気にホッとしながら自分のデスクの前に行って荷物を置いて顔を上げた瞬間、少し離れた場所のデスクに座っている雨宮と目が合った。
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
平然と挨拶を口にする雨宮とは反対に、千紗子の挨拶はつっかえ気味になった。
挨拶を交わした後、ジッと雨宮が何か言いたげに見つめている。
(な、なにか……)
彼の言いたいことが分からずに、千紗子は動きを止める。
デスクを立った雨宮がゆっくりと近付いてくるのと比例して、千紗子の心臓が早くなっていく。
「木ノ下、これ、良く出来ていた。このまま今日の打ち合わせで使おう。」
雨宮の手には千紗子のUSBが握られている。
千紗子のデスクにそれを置きながら、雨宮が千紗子の耳元で低く囁いた。
「池に落ちてるかと心配したぞ。」
スッと離れていく彼の瞳が、眼鏡の奥で悪戯に細められている。
「時間だ。ミーティングを始めましょう。」
千紗子の横を通り抜けた雨宮の背を呆然と見つめながら、千紗子は顔が赤くならないよう抑えるのに必死になった。