Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 
 「千紗子?」

 雨宮に名前を呼ばれて、千紗子はハッとなった。
 空の器を両手の平に乗せたまま、千紗子は動きを止めていたようだ。彼女を見下ろす雨宮の瞳が、「どうかしたのか?」と問うている。
 
 「な、なんでもありません。」

 ぎこちなく動き出した千紗子は、受け取ったランチパックをキッチンに持って行く。そこには自分が使った弁当箱も置いてある。

 「洗ってくださったんですね。」

 雨宮から渡された使い捨ての容器は既に綺麗に洗われていた。千紗子はそのことに正直驚いた。

 「ん?作って貰ったんだから当たり前だろ?それに明日もそこに弁当を入れて貰おうと思ってるからな。」

 さらりと雨宮の放つ言葉に千紗子はドキリ、とした。

 「あの…それなんですが、」

 「玉子焼きがまた食べたい。」

 「え?」

 千紗子の言いかけた言葉の上から、雨宮の嬉しそうな声が重なる。
 しかもその声の主はニコニコと満面の笑みだ。

 「今日食べた玉子焼きがすごく美味かったから、また明日も作ってるれるか?」

 少年みたいな無邪気な笑顔を浮かべて、小首を傾げて見下ろしてくる雨宮の目を見た瞬間、千紗子は自分の不戦敗を悟った。

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