Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「もちろん他のも美味しかったぞ。コロッケもすごく美味しかったし。」
「あれは昨日の肉じゃがの残りを再利用しただけですよ。」
肩の力がストンと落ちた千紗子は、諦め半分で雨宮にコロッケの種明かしをする。
「へぇ、すごいな、千紗子は。やっぱり料理が上手なんだな。」
「……褒めても何も出ませんよ。」
千紗子が諦め顔でそう言うと、一瞬キョトンとした顔をした雨宮が、突然「あはははっ」と笑い出した。
特別面白いことを言ったつもりもないのに笑い出した雨宮に、千紗子は固まってしまう。
こんなふうに声を上げて笑う雨宮は、職場では見たことはない。
「くっくっ、…笑ってごめん。ちょっと嬉しすぎて。」
「嬉しすぎて?」
「そう。千紗子がそんなふうに遠慮せずに話してくれるなんて、今まではほとんど無かったから。」
「………。」
職場の上司に『遠慮なく話す』なんて出来るわけない。水曜日のタクシーの中では、お酒が入っていたせいもあって、少しフランクに話すことが出来たけれど。千紗子は基本的に目上の人と気楽に話が出来るタイプではないのだ。
(雨宮さんとプライベートも一緒にいるせいで、ちょっと気が緩んでるのかも…)
握った拳を顎に当てて考え込んでいる千紗子に、雨宮は眉を下げる。
「千紗子、俺は嬉しいっていったんだぞ。」
「え?」
「今、俺への口のきき方を戻そうと思っただろ。」
「な、なんで…!?」
「言っただろ?千紗子の考えてることはなんとなく分かるって。でも。『なんとなく』だからな。俺は君にちゃんと言葉にして話してほしい。」
「言葉にして話す……。」
「ああ。思ってることは何でも言って欲しい。それこそ遠慮なんてしないで。」
「………。」
「そんなに難しいことか?俺が上司だから?それとも年上だから??」
気付くとさっきまで雨宮との間にあった人ひとり分距離が、ほとんどなくなっている。
腕を伸ばせば、彼の体にすぐに触れられるほどに、近い。
「でも千紗子、今は職場じゃない。俺はただの男だ。」
切なげな瞳が千紗子を見下ろしている。
何かを願って揺れるそのに、千紗子の胸がギュウっと締め付けられる。