Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 次の瞬間、目の前が何か黒っぽいものに覆われた。
 千紗子は一瞬息を止める。そして再び息を吸った時、やっとそれが雨宮の紺色のニットだと気付いた。

 「ごめん……」

 千紗子には、雨宮が謝罪を口にする理由が分からない。
 更に言うなら、自分を抱きしめるわけも。

 「千紗子を責めてるわけじゃないんだ。」

 バリトンボイスが耳の横の空気を震わす。その声には後悔の念が滲み出ていた。

 「あんなに辛そうに泣く千紗子を、俺はもう見たくない。けど、あの彼のところに戻りたいと君が願うなら、俺にはそれを邪魔する権利はないんだ…それが堪らなく辛い……。」

 坦々とした声の、その裏に潜む彼のジレンマが、耳元を震わせる音と共に千紗子の心に届く。
 一旦言葉を切った雨宮は、しばしの沈黙の後再び口を開いた。 

「―――嗚呼、俺は嫉妬しているのか。そんなふうに君に想われている彼に…。」


 千紗子の奥底にある何かが震えた。

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