Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「ちがいます…」

 喉を震わせて絞り出した声はあまりにも小さい。
 それでも、千紗子はありったけの気持ちを込めて、言葉を紡いだ。

 「彼の…あのひとの所に戻るつもりは、ありません。…新しい、一人暮らしのマンションを今日契約しました。だから、今夜からそこに帰るつもりで、それを言いたくて……」

 一言一言、ゆっくりと言葉を探しながら、今度は事実を間違えないように伝えようと、千紗子は必死だった。

 「もう、あのひとのことは、なんとも……」

 千紗子がそう口にした途端、ぎゅうっときつく抱きすくめられた。

 逞しい腕が身じろぎひとつ許さないほどの力で自分を締め付ける。
 息がつけないほどの圧迫感に、苦しいのは体なのか、それとも心なのか――。

 頬を伝った涙の跡は、既に乾いている。

 「はぁ~~っ」

 無言で千紗子を抱きしめていた雨宮が、長い溜め息と共に腕の力を抜いた。

 「良かった……」

 そう呟いた彼が、心底ホッとしている様子が伝わってきて、千紗子も安堵する。

 (今度は間違えずに伝えられたんだ……)

 口下手な自分が招いた誤解が解けたことに、千紗子は胸を撫で下ろした。
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