Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 人の波を掻き分けながらあちこちを見渡す。けれども、雨宮の姿はどこにも見当たらない。
 本格的に降りだした雨とあちこちで広がりはじめた傘で、千紗子の視界は塞がれていく。

 (どこに行ったの!?)
 
 雨宮が消えたのは駅の方へと向かう道だった。彼のマンションとは反対の方向だったから、これから出かけるところだったのかもしれない。
 
 (もしかして、電車に乗った…?)

 そうしている間にも雨は強さを増していく。
 
 鞄の中に入っている折り畳み傘を広げる時間すら惜しんで走り回っていた千紗子の体に、湿り気を帯びたコートが重く体にのしかかっていく。

 千紗子の足が、とうとうその場から動かなくなった。


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