Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「今日はありがとうございました。」
黙々と二人で歩くこと、十分足らず。
駅のロータリーの所で、千紗子は思い切って雨宮の背中に声を掛けた。
(雨宮さんは噂では、駅向こうに住んでいるって聞いたわ。私は電車に乗るから、ここまでね。)
緊張しっぱなしで力の入っていた肩を、少し撫で下ろす。
「また明後日、よろしくお願いします。」
ペコリ、と一礼して改札口の方へと体を向けようとした時、千紗子の手首を大きな手が掴んだ。
「こんな時間に女の子一人で帰せるわけないだろう。」
「え?」
「もう遅いんだ。何かあったらどうする。家まで送るから。」
驚いた千紗子の目が丸くなる。
掴まれた手首が熱い。この熱はこの上司のものなのだろうか。
ビックリしたけれど自分が何か言わなければ、と急いで言葉を探す。
「い、いえ大丈夫です。電車を降りたら駅からすぐなので、一人で」
と途中まで言いかけたところで、グイッと腕を引かれた。
「面倒だな。」
そのまま何が起こったか分からないスピードで、ロータリーに止まっていたタクシーの中に押し込まれた。
「え、や、あの雨宮さん!?」
「出してください。東区山手町まで」
と、何故か千紗子の住所を雨宮が運転手さんに告げる。
何が起きたのか思考の着いていかない千紗子は、ただ雨宮の横顔を凝視するばかりだった。